ダウンシフトを生きる

「ダウンシフト」、一緒にはじめませんか?

タルマーリー、大島芳彦 そして 山崎亮  (※敬称略)

こんにちは。OGUROBBYです。

先日、雪の降りしきる中、広島まである講演を聞きに行ってきました。

この日は朝食を済ませた後、出発に向け、約1時間の雪かき。
町道まで出れば、他のクルマの轍を利用することができるのですが、
雪に埋もれたクルマを救出し、町道までの轍を作ってやらないと、何処にも出掛けられないわけです。

長靴の裾まで雪が来ていたので、この時点で積雪量が30cmはあったでしょうか。

雪を掻いて、一カ所に集める。
この繰り返しなのですが、雪って結構重いんですよね。
腰を傷めないように、一歩一歩着実に掻き出し、轍を作っていきます。

ただ、やり始めるとこれが案外面白い。
ランナーズハイ、ならぬ ショベラーズハイ とでも申しましょうか。

「早くしないと、用事に遅れるよ」という心の声と、
手を緩めたとたんに冷えた汗の冷たさで我に返るのですが…。(笑)

ともあれ、気づけば想像以上の汗。
このまま出掛けたのでは、風邪を引くことは必定。
ここで、まさかのお色直しです。

頭も雪でビショビショですし…。
フード付きのジャンパー、あれがここでは必須です。

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のっけから、慣れない雪にドタバタ。
しかも広島市内ではカーナビの導くままバスターミナルへ侵入してしまい、違反切符を切られるオマケ付き。(苦笑)

が、そんなこと忘れられる位、面白い話が聞けた一日でした。

あ、お巡りさんの話じゃなくて、講演会の方ですよ。(笑)



目次
1.「当たり前のことを、やり続ける」
2.「当事者がいるかどうか」
3.そして感想

 

1.「当たり前のことを、やり続ける」 (タルマーリー)

この日、僕たち夫婦が参加させて頂いたのは、広島県主催の「ココロザシ応援プロジェクト すっごい交流会」。
来月(2017年3月)から開催される「さとやま未来博」の一環として、広島県が地域の活動を応援するためのプロジェクトです。

ファシリテーターを山崎亮さんが通しで務め、ゲスト三組と一日かけて順番にトークセッションを行うものでした。

ゲストは順に、

 第一部: ナガオカケンメイさん(デザイン活動家)
 第二部: タルマーリーの渡邉夫妻(パン屋)
 第三部: 大島芳彦さん(建築家)


僕たちは、第二部の タルマーリー x 山崎亮 から、聴講することができました。
会場の定員は250名だったようですが、ほぼ満席。


講演は、「タルマーリー」の自己紹介から始まります。

「タルマーリー」とは、鳥取県智頭町にあるパン屋さん。
国産小麦と天然菌にこだわって、パンを製造、販売。
最近はビールも製造、販売しています。

元々、千葉県の外房で渡邉格(イタル)さん、麻里子さんのご夫婦で開業。
素晴らしい菌(自然)を求めて、その後は岡山に移転。
現在は、人口7,500人の智頭町で「タルマーリー」を経営されています。

「イタル と マリコ で、タルマーリー」

そんな漫才のような掛け合いで、講演会は始まりました。


タルマーリーの凄さは、【当たり前のこと】を、やり続けていることだと思います。
【】で括ったのは、一般の「当たり前」からは、全くかけ離れているからなんですけど。(笑)

曰く、タルマーリーを千葉で開業した2008年当時、「国産小麦と天然菌」を売り物にしたパン屋は、当たり前にあったのだそうです。
ただし、「実は天然菌にイースト菌も混ぜて使っているパン屋」、
或いは、「天然菌だけのパンも売っているけど、イースト菌のパンも売っているパン屋」が殆ど。
消費者目線では、何がどんなパンなのか判らなかった。

だから、「国産小麦と天然菌だけのパン屋」をタルマーリーの原点にされたそうです。

この思想が、どれだけ突き抜けたモノなのかは、恐らく実際のパン屋さんでないと、解らないのでしょうね。
菌を求めて、智頭町まで移住。
空気中の菌を化学物質で汚染しないよう、ファブリーズやカビキラーは勿論、歯磨き粉まで使わない生活をされています。

昔はそういうパンの作り方が当たり前。
ファブリーズもカビキラーもなかったので。
でも今や、、、その作り方は当たり前ではないですよね。

「うちのパンは結構美味しくない。」
格さんの冗談(?)です。
付け加えると、美味しいパンではなく、意味のあるパンだ、と。

一般に、卵、バター、砂糖を使うとパンは美味しくなります。
それらを使わないことで、タルマーリーにしか出来ないパンになる。
そして、「中には美味しいと言う人も出てくる」、のだそうです。


渡邉さん夫妻のトークのテンポも素晴らしかった。
格さんの冗談が会場を引き込み、麻里子さんがズバッと切り込む。

実際の経営でも、きっちり役割分担をされているのだそうです。

 格さん:   パン製造、ビール製造、DIY
 麻里子さん: 経営(販売、経理、スタッフ管理 etc.)

麻里子さんは、「地域内循環」を、最初から強く意識されていたそうです。
昔、格さんが美味いバゲットを焼くために、フランスから小麦を取り寄せようとしたら、麻里子さんにぶっとばされた、と。(笑)

現在は、地域内で環境保全的な農業をやる方から、小麦やトマト等を市価の2倍、3倍の価格で購入されているそうです。

「自分のためにやることが、社会を良くしていくことにつながる」

トークの役割分担も、完璧でした。

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現在に至る過程で、何か特別な発明があったわけではない。
敢えて言うと、「愚直にやり続けること」が、タルマーリーという個性を作り出す。そんなタルマーリーの存在に、勇気をもらう人は沢山いるだろうなぁ。


ちなみに、ご主人の格さんは、『田舎のパン屋が見つけた「腐る」経済』も執筆されています。こちらも面白いですよ。

田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」


タルマーリーのホームページはコチラ。

自家製天然酵母パン&クラフトビール&カフェのタルマーリー





2.「当事者がいるかどうか」 (大島芳彦)


続く第三部は、建築家の大島芳彦さんです。
恥ずかしながら、僕は今回の講演で初めて大島さんを知りました。

建築関係には、今まで殆ど興味をもってきませんでしたから。

東大寺正倉院=校倉づくり」。
僕の建築関係の知識は、そこで停まったまま。

東京にいるときも、建築家の方が書いたまちづくりに関する本を読みました。
 嫁、大絶賛。
 僕、「一応、読んだけどそれだけ」。
何?この小学生以下の感想文。(笑)

建築アレルギーと言って、ほぼ支障ないレベル。
有難いことに、移住してDIY的なことも経験し、アレルギー的なものは改善されつつあります。

そんな僕が聴いても、今回の大島さんの講演は面白かった。


質問コーナーで、こんなやり取りがありました。

参加者
「隣町の小学校が2年後に廃校になります。廊下も真っすぐできれい。何とか保持、活用したいと思っているのだが、山一つ越えた隣町に住む自分が、どうやって関わっていったらよいか?」

この質問に対する、大島さんの回答が圧巻でした。
その場で、簡単に状況を聞き込んだ後、こう回答したのです。

「今のお話からすると、小学校を残したいという当事者がいない。
当事者がいないのであれば、校舎の保持を考えるよりは、校庭を畑にして、地域で活用した方がいい場合もある。」

衝撃的でした。
古いもの=良いもの という価値観、あると思うんです。
この小学校なんて、正に最たるもの。
ところが、です。
建築家である貴方が言うか!?、と。
ある意味、ハコの否定ですよね。(言い過ぎかな~???)

リフォームとリノベーションの違いの説明も納得感がありました。

 Re-form:     作り直し方
 Re-innovation:   使いこなし方

つまり、Re-form は、ハコを作って(作り直して)、引き渡してオシマイ。
これに対し、Re-innovation は、そのハコを「どう使いこなすか?」を考える。

そして、大島さんの所属する blue studio は、使いこなし方を考える設計事務所
そんな大島さんによる、地域づくり、まちづくり。


「地域の日常にこそ、価値は潜む」


「地域との間に連続性がなければ、地域づくりにはならない」、と解釈しました。
当事者を増やしていかないと。

当事者になることに価値を見出せたら、人は入って来る。
大事なことは、当事者になりたい人が真似できるかどうか。(再現性があるか)
例えば、都会で大人気の鯛焼き屋さんが田舎に移転しただけでは、地域づくりにはならない、という話もありました。

同じビジョンを持ち、一人一人がそれぞれ自分の言葉で語ることができるようになる。それこそが、地域づくりである、と。


大島さんは続けます。
「皆さんのため」は、実は「誰のためでもない」。
「あなたのため」を明示していくことで、当事者も増えるし、地域との連続性は生まれる、と。


大島さんへの予備知識がなかった分、フラットに聴くことが出来ました。

「当事者かどうか」

そう言えば、サラリーマン時代も耳にしていた気がするなぁ。
雇用されているからといって、当事者であるとは限らないわけです。


3.そして感想


そして、この日の講演会を語るうえで、外せないのが山崎亮さん。
ファシリテーションが、とても上手だった。

本当は第二部のタルマーリー終わった時点で帰るつもりだったけど、あまりに山崎さんの進行が上手で、進行を聞くためだけに第三部も残ってしまった。(笑)
結果、大島さんの話も面白かったので、正に棚ボタ。

山崎さんのファシリですが、テーマ管理、時間管理は勿論のこと、
上手に笑いを引き出したり、聴講者の???な質問に対しても、誰も不愉快にさせることなく、進めていました。

「凄いな」と思ったのは、第二部の質問コーナー。
聴講者の方から、こんな質問が出ました。

「成功された理由を3つ教えて下さい」
会場は、質問者自らが「3つ」と絞る斬新なやり方に、ややどよめき。

「3点ですか。2つはこれまでの話でもう出てきた気がするのですが…」
山崎さんは、そんな風に渡邉夫妻につないでいました。

この冷静さ。びっくりしました。
もし僕が進行任されていたら、相手のトークに耳を傾けつつも、気持ちの半分は「次は何を聞く」「こういう切り込み方をしよう」と考えてしまいます。
日常会話でも、そういう事はままあるかも。
相手の話を丁寧に聞き、きちんと頭の中に整理して格納している。凄い人だ。

ご自身がトークの主役として呼ばれても全く違和感ないのに、一切の自己主張を置いて、進行に徹する辺りも流石の一言に尽きます。


山崎さんからは離れますが、もう一つ驚いたのが、この地方のポテンシャル。

この日は「すっごい交流会」と銘打たれたイベントでした。
交流できる仕組として、各部の質問コーナーの前に、隣前後の席で自由にグループを組み、自己紹介から質問事項の共有を行うようになっていました。

何が驚いたって、この日話した3組の方全て、既に何か始められているんですよ!
例えば、耕作放棄地となった地域の茶畑を復活させよう!とか。

世羅茶がんばっとるけ〜ね - 世羅茶再生部会


僕らのように、野次馬的なノリで参加した人は周りにはいなかった。(笑)

これは広島という都市の規模がなせる業なのかもしれません。
ちょっと行けば里山が広がってますから。

仮に東京で同じ催しを開いたら、会場が超満員になるのは間違いない。
でも聴衆のほとんどは、都心に住む人々になるでしょう。
実践者がこれだけ集まるっていうのは、ちょっと考えられない。

里山に住む人々が、当事者として、それぞれに問題意識をもってイベントに参加している。意外と日本の最先端の姿かもしれないな。